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Family Affair. 三日目 その2「違和感」
 キャスターを家に残し、学校に辿り着いた。
 部活の朝練が無い俺には、まだまだたっぷりと余裕のある時間帯。
 ゆっくりとした足取りで校門を抜けたところで、言い知れぬ違和感に襲われた。

「む――?」

 思わず立ち止まり、周囲を見回す。
 校庭には、元気に走り回っている、運動部の連中。
 まだ真新しい校舎にも、これと言っておかしい所は無い。
 ――しかし、首を捻る。
 どこかが、いつもと違っていた。
 学校全体が、甘い粘膜みたいにドロっとした何かに覆われて、人間から建物まで、その生気を失っているように思えるのだ。
 いつもなら、そんな馬鹿な感覚、勘違いで済ませてしまうのだが、今はそういった違和感が大切だったりする場合もある。

「帰ったら、キャスターに相談してみるか」

 それが最善だろうと判断して、とりあえず教室へ向かった――のだが、そこで、物凄く重大な事に気が付いた。

 え、あー、いや、ちょっと待てよ。
 この違和感が、魔術的な何かだとすれば、学校には、それを行った誰かが居るって事なのか?
 まさか。と思った所で、即座に桜の事が脳裏に浮かぶ。
 キャスターの話によれば、桜は魔術師だと言う事だけど――いや、それより聖杯戦争に参加する為に来た、他の魔術師たちは?

 ごくりと、口に溜まった唾液を飲み込んだ。
 まずい。絶対にまずい。
 この違和感が、魔術によるものなのかは判断できない。
 できないけど、その可能性を否定することも出来ない。
 もしこれが、魔術的な何かとすれば――学校は、どうなってしまうのだろう?
 ――胸の動悸が早くなり、嫌な予感が頭を支配する。
 俺は、教室に向かっていた足を止めると、慌てて踵を返した。
 そして、走り出そうとした所で、弓道着をまとった顔見知りと遭遇する。

「お、衛宮。
 どうしたんだ、そんなに慌てて」

 美綴綾子――去年のクラスメイトで、ウチの学校の女生徒の中で一番親しい友人が、そこに立っていた。

「美綴か、おはよう」
「あぁ、おはよう――あれ? なんだか顔色が良くないな。
 具合でも悪いの?」

 心配げにこちらを見る美綴。
 どうやら焦りのあまり、顔色が悪くなっていたらしい。

「いや、そんな事無いぞ。
 お前の方こそ大丈夫か?
 こう、だるいとか、胸が苦しいとか、気分が悪いとか」
「ん? あたしもそんな事無いぞ。
 なんだ、こちらも顔色が悪かったりするのか?」

 余計な心配をさせたことを申し訳なく思いながら、学校を覆いつくす違和感で、何か影響が出ていないか知りたくて、注意深く目の前の彼女の様子を窺った。
 美綴は、俺の言葉に首をかしげ、己の顔をペタペタと触る。

「――いや、大丈夫だ。健康そうな顔色だよ。
 何でもないならそれで良い。
 気にしないでくれ」
「そうか」

 俺の言葉に、疑問顔だった美綴は、あっさりと頷いた。
 こういう所が、彼女の良い所だと思う。
 美綴は、何事も無かったように爽やかな笑顔を浮かべると、ポンとこちらの肩を叩いた。

「じゃ、衛宮。
 お前に言ったところで、無駄だとは思うけど、無理はしないようにな」
「あ、ちょっと待ってくれ!」

 そのまま行こうとした美綴の腕を掴んで、引き止めた。
 無駄って何だよ――なんて余計な事を一瞬考えた後、聞かなくちゃいけない事を思い出したのだ。

「桜は、今日どうしてる?」

 美綴は、桜の所属する弓道部の部長だ。
 弓道着を着ている彼女だから、きっと朝練に参加中なのだろう。
 その美綴ならば、桜が学校に来ているか知ってると思ったのだ。

「間桐か?
 ちょうど今、藤村先生に聞いてきたところなんだが、何でも体調不良でお休みらしいぞ。
 知らなかったのか?」
「あ、うん。今朝は会わなかったから。
 そっか、体調不良――」

 顎に手をやり、考える。
 本当に体調不良で休んでるんなら、不幸中の幸いだけど……。
 俺に会いたくないとか、聖杯戦争に関わる理由だったら嫌だなぁ。
 あ、でも、今日学校に来ていないなら、この異変に関わってる可能性は少ないだろう。
 そのことに、少しばかりほっとする。

「ありがとう。
 悪かったな、呼び止めて」
「いや。
 最初に呼び止めたのは、あたしだから。
 なんなら、このまま一緒に弓道場へ行く?」
「……今の会話から、どう繋がってそういう話になるんだ?」

 呆れ気味に呟いた俺に、美綴はキシシと動物みたいに笑った。
 美綴は、何かにつけて俺を弓道部へ勧誘してくる。
 何でも、俺との勝負がついていないだとか、なんだとか。
 途中でリタイアしたこちらより、毎日練習を続けている美綴の方が上手いに決まってるのに、どうも過去の俺が美化されているようである。

「つれないな、衛宮は……ま、いいや。
 それじゃ、気が向いたら寄ってくれ」
「気が向いたらな」

 じゃ、と別れをつげて、美綴が弓道場の方へ去っていった。
 その背中を見送りつつ、自分の頭が随分と冷静になった事に気付く。
 この戦争に巻き込まれてから特に実感するのだけれど、何か感情を揺さぶられるような事があると、気が動転して、何も考えられなくなるのは、悪い癖だ。
 ――美綴に、感謝しなくちゃな。
 短い会話で、冷静さを取り戻させてくれた友人に、心の中で礼を述べた。

 で、だ。
 冷えた頭で考えなきゃいけないのが、これからどうするかって事だが……どうするよ?
 正直、途方にくれて、周囲を見回す。
 目に入るのは、いつもと変わらぬ風景で、肌で感じるのは、奇妙な違和感。
 そのどちらを信じれば良いのか、俺には判断ができなかった。
 ――家に戻れば、この違和感をキャスターに報告できる。もし魔術的な物だった場合は、上手く行けば、何らかの事件が起こる前に、解決できるかもしれない。
 学校に残れば、その何か起こったときに現場に居れる可能性が上がるが、その代わり、自分では何の役にも立たない可能性もある。
 うーむ。今日は土曜日だから、午前中の授業が終わったところで速攻帰るという手もあるのだけど……。
 判断のつかない俺は、とりあえず、この違和感が校舎の中にもあるのか調べるため、昇降口に入った。
 と、そこで。

「衛宮じゃないか」

 再び、顔見知りに遭遇した。

「――慎二。
 珍しいな、こんな時間に」

 思わぬ人物との遭遇に、身を硬くする。
 下駄箱の前で靴を取り替えていたその知り合いは、桜の兄で、俺のクラスメイトである間桐慎二だった。

「どうしたんだよ、衛宮。
 人の顔見るなり固まって」

 動揺する俺の顔を見て、慎二が歪んだ笑みを浮かべる。
 その顔を見て、「まずい、俺馬鹿かも」なんて、心の中で呟いた。
 ――だってさ、桜のことばかり考えて見失っていたけど、キャスターの言う事が本当ならば、その兄の慎二も魔術師の可能性が高いんじゃ無いか?
 もしも魔術師だとしたら、聖杯戦争のマスターだって可能性もある。
 仮定ばかりの話だけれど、この予想が当たってたとすれば、昨日家に戻って、桜からキャスターのことを聞いたら、目の前の彼はどう思うのだろうか。

「慎二、今日桜は病欠なんだって?
 風邪でも引いたのか?」

 いつでも動けるように、自分の立ち居地に注意しながら、慎二の目を見て尋ねる。
 慎二は、俺の問いに不可解そうに顔を顰めたあと、あぁと頷いた。

「なんだ。そう言う話になってるんだな。
 違うよ、衛宮。桜は病欠なんかじゃ無いくて、サボリだ、サボリ。
 あいつ桜のクセに、生意気だよな?」

 言って、慎二は大声を出して哂った。

 ――おかしい。
 なんかおかしいぞ、コイツ。
 その気でも狂ったかの如くの笑い声に、額から汗を垂らす。
 いつもの慎二なら、こんなに朝っぱらからテンションを上げて、大声で笑うなんて事は滅多に無い。
 昔からちょっと変わった所のあるヤツだったけど、今の慎二は、そういう問題以前の状態に見えるのだ。

 一歩、出口へ後ずさる。
 心臓が早鐘を鳴らして、顔なじみの彼の異変を知らせていた。

「おい、どこ行くんだよ?
 教室はこっちだぜ?」
「ちょっと、家に忘れ物したのを思い出した」
「――ふうん」

 俺のどうしようもない言い訳に、慎二は楽しそうに鼻を鳴らす。
 バタンと靴箱を閉じて、そのまま俺に背中を向けた。

「今から戻ったんじゃ、完璧に遅刻になる。
 何を忘れたのか知らないけど、僕が貸すよ?」
「いや、遠慮しておく。
 走って帰れば、何とかなるかもしれないから」

 また一歩、後ろに下がった。
 慎二は笑っているが、その背中には、妙な雰囲気をまとっているのだ。

「ねぇ、衛宮」

 その背中が、違和感を感じるくらいの優しい声を出して、振り返る。
 しかし、慎二の顔は、先ほどまでの笑顔はどこへやら。
 眉は歪み、目は見開かれ、怒りに歯を食いしばっていた。

「ぼ、く、が、貸すって言ってるんだよ。
 だったらお前は、黙って借りれば良い。そうだろ?」
「慎二、おまえ……っ!」
「逃げるなよ、衛宮。
 僕さ、今日お前と話したい事があるんだよね。
 だから、放課後まで学校に居てもらわないと困るんだよ。解った?」

 慎二の顔が、再び落ち着いた表情に戻っていく。
 けど、逆に落ち着いた顔の方が得体が知れなくて、俺は返事を返す事が出来なかった。
 その俺に、慎二は一度吐き捨てるように哂うと、再び背中を向ける。

「話したいことってのは、桜の事だよ。
 逃げ出したら、あのクズがどうなるか知らないからな?」
「桜の――!?」

 俺の声に、慎二はちらりと振り返ると、満足げにその場を去っていった。





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