CALENDAR
S M T W T F S
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930     
<< April 2018 >>
SPONSORED LINKS
ARCHIVES
CATEGORIES
MOBILE
qrcode
<< Family Affair. 三日目 その2「違和感」 | main | Family Affair. 幕間〜少女マスター、初陣〜 >>
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| - | | - | - |
Family Affair. 三日目 その3「魔術師の息子」
 あれは、四年前の事だった。
 放課後の学校、その中庭。
 前日に降った豪雨で、すっかり壊れてしまった花壇の修理をしていた時だ。

「おまえ馬鹿だろ」

 突然目の前に現れた少年は、心底呆れた様子でキッパリと言い放った。

「え、なんでさ?
 つか、アンタ誰だ?」
「お前こそ誰だよ?」

 俺の当然の疑問に、くるくるとクセのある青い髪を持った少年は、近くにあった水場の台に腰掛けながら、逆に質問を返す。
 その顔は、冗談とか、からかってる物ではなく、至極真面目な表情をしていた。

「――衛宮。
 2年の、衛宮士郎だけど」
「ふうん」

 こちらが名乗ったのにも関わらず、そのクセっ毛は、興味なさそうに頷き、そのまま黙り込む。
 ――何なんだ、コイツ?
 何がしたいのか図りかねて、俺は思わず首を傾げた。
 暫く反応を待ってみても、ソイツが俺に口を開く様子は無い。

「?」

 もう一度首を捻ってから、時間の節約のためにも作業を再開することにした。
 その間も、ソイツは何か話すわけでもなく、手伝うわけでもなく、ただ黙って俺の作業を眺めている。
 その無遠慮な視線に居心地の悪さを感じながらも、目の前の仕事に集中し始めると、すぐに周りは気にならなくなった。

 ――そうして時は経ち、崩れ果てた花壇が元の姿に戻った頃には、日は落ちて、最終下校時刻になっていた。
 一通り眺めて、その出来に満足すると、立ち上がって振り返る。
 と、そこで、クセッ毛のソイツが、まだこちらを眺めていた事に気が付いた。

「まだ居たのか、お前?」

 泥だらけの手と、使った道具を洗うために、ソイツの座り込んでいる水場に向かう。
 隣で蛇口を捻りながら尋ねても、やっぱり俺の問いに答えは無かった。
 ただ、先ほどと違ったのは、その整った作りの顔が、楽しそうに緩んでいたという事。
 俺の直した花壇を眺め、何やら満足げに頷くと、やっとこちらに振り返る。

「おまえ馬鹿だけど、いい仕事するじゃん」
「えー? ありがとうって言うべきなのか、ここは?」

 突然の言葉に、首をかしげる俺。
 それを見て、楽しそうに笑うソイツ。

 ――これが、間桐慎二との出会いだった。





「用件は、早めに済ませてくれ。
 夕食の準備をしたいんだ」
「まぁ、そう焦るなよ、衛宮」

 放課後の弓道場。
 先ほどまでの部活動の熱気は、とうに消え去っていた。
 周囲に人影は無く、この場に居るのは、俺と慎二だけだ。
 本当は、話とやらをとっとと済ませて、家に帰りたかったのだけど、部活が終わるまで待てと慎二に言われ、それに抵抗することも出来ずに、この時間まで待ちぼうけを喰らっていた。
 俺から5メートルほどの距離を取った所で、腕を組むようにして立つ慎二。
 その顔が、笑顔で歪んでいる。

「買い物もまだなんだよ。
 商店街が閉まっちまう」

 その笑顔に妙なプレッシャーを感じながら、俺は適当なことを言って場を濁した。

 ――怖い。
 何が怖いのかも解らずに、身体はガタガタと震えている。
 嫌な予感ばかりが脳裏に浮かび、口の中がカラカラに乾いた。
 そんな俺の姿に、慎二はますます笑みを強くして。

「なぁ、衛宮。
 おまえマスターなんだってな」

 聞きたくなかった言葉を直球で投げてよこした。

「なんだって?」

 喉に引っかかるようにして、返答する俺。
 慎二は、組んでいた手をポケットに突っ込んで、呆れたような表情でこちらを見る。
 そして。

「とぼけるなよ。
 もう知ってるかも知れないけどさ、僕もマスターなんだぜ。ほら」

 慎二の声にあわせるようにして、その背後に人影が現れ、俺は思わず息を飲んだ。
 人影は、俺や慎二よりも高い身長で、紫色の美しい髪を床まで垂らし、豊かなラインの身体を黒いボディコンスーツで包んでいる、両目を眼帯で隠した女性だった。
 その女性が、幽鬼のように生気を感じさせぬ気配で、ただ黙って立ち尽くしている。

「コイツが、僕のサーヴァントのライダーだ。
 愛想の無い役立たずだけど、身体の方はわりと良いだろ?」

 慎二の手が、その女性のむき出しの太ももに伸びた。
 真っ白で、柔らかそうで、それでいて引き締まっているソレを、遠慮なく撫で上げる。

「止せよ、慎二」

 その光景があまりに不快で、俺は状況を忘れて、怒りに声を震わせた。
 慎二と女性の関係は解らないけど、たとえどのような間柄でも、他人の目の前で足を触るなんてのは、非常識すぎる。

「はっ、衛宮は相変わらずだな。
 そう怒るなよ。ほら、もう触ってないだろ?」

 慎二は、そんな俺の反応を楽しむように哂うと、言葉どおり女性から手を放した。
 そこで俺は、やっとのこと状況を理解し始める。
 慎二は、自分をマスターだと言った。
 そして後ろの黒衣の女性は、自分のサーヴァントのライダーだと。
 ――サーヴァントのライダー。
 聖杯戦争において呼び出される、七騎のサーヴァントの一人で、騎乗のスキルを持つ使い魔。
 それ以上のことは、キャスターから教わってはいないけど……なるほど。先ほどから感じていた言い知れぬ恐怖感は、慎二ではなく、ライダーに対して感じていたんだ。
 一言も喋る事無く、また指先一つ動かす事無く、ただその場に立っているライダー。
 その身体から発せられるプレッシャーは、今まで感じたことの無いほど強大なものだった。

「衛宮も、女のサーヴァントを連れてるそうじゃないか。
 ライダーのことを見せたんだ。僕にも見せてよ」

 ライダーの後ろに、隠れるように下がりながら、慎二が言う。
 サーヴァントを見せろって、キャスターのことか?
 どうやら慎二は、霊体になって近くに居るとでも思っているらしい。
 でも、確かサーヴァント同士は、互いの気配を確認できるはず。

「――断る。
 今日は、サーヴァントの話じゃなくて、桜の話をするんだろ?」

 俺と慎二の間に立つライダーの視線を、慎重に受け止めながら口にした。
 ライダーは、俺の傍にキャスターが居ないことを気付いているはずだ。
 いつそれを慎二に伝えるか、それとも既に慎二は知っているのか……。とにかく、いつでも逃げ出せるように意識しながら、早めに話を切り上げたかった。
 中学の頃からの顔なじみが、他人や俺を傷つけてまで聖杯とやらを手に入れようとしているとは思わないけど、今の慎二の様子は、あまりに異常である。
 そんな相手に対して、慎重になるのは悪いことでは無い。

「ふん、何それ?
 卑怯者だね、衛宮は。
 大体、校内にサーヴァントが居るのに、どうして手元に呼び寄せないのさ?
 もしかして僕のこと、侮ったりしてるんじゃない?」
「校内にサーヴァント――?」
「気付いてないとでも思ったの?
 サーヴァントはお互いに気配を察知することが出来るんだよ。
 けど、校内をうろつかせてるって事は、あれか。
 学校に張ってある結界をどうにかしようと思ってるんでしょ」
「ちょ、ちょっと待て、慎二!」

 俺は脳みそがパンクするような感覚に襲われ、矢継ぎ早に口を開く慎二を押し留めた。
 だってさ、ちょっと待てくれよ。
 校内にサーヴァントが居る?
 ――そのサーヴァントはキャスターなのか? それとも、他のサーヴァント?
 学校に張ってある結界をどうにかする?
 ――慎二は学校の異変を知っていた? いや、こいつが魔術師なら、気が付いて当たり前か。それに。

「学校のこの異変は、お前の仕業なのか、慎二」

 ――なんて可能性もある。
 その”結界”とやらが、どういう機能のものなのかは解らないけど、少なくとも感じる気配は、良い物ではない。
 それを、慎二が張ったのだとしたら、コイツは、学校の皆も巻き込む気なのか?
 そこまで考えて、ざわりと、体中が総毛立った。
 慎二は、そんな俺を見て、慌てた様子で手を振る。

「待てよ、衛宮。
 それは違うよ。僕は結界なんて張ってない。
 誰かを巻き込む前に、何とかしなきゃなって思ってたんだ」
「本当か?」
「あぁ。僕が今まで衛宮に嘘をついたこと、あった?」

 顔に苦笑めいた笑顔を浮かべ、慎二が言う。
 ――確かに、慎二は口が悪いだけで、嘘をつくような事は一度も無かった。
 良くも悪くも正直者で、そんな意外に不器用なところを、俺は気に入っていたりするのだ。
 それに慎二が、学校の皆を巻き込むような事はしないと、思いたいというのも有る。
 だから。

「……なら良いんだ。早く話を済ませよう。
 あまり時間が無い」

 俺は、慎二に話を促した。
 結界の問題は置いておくとしても、もう一人のサーヴァントの存在が気になる。
 キャスターが、帰りの遅い俺を迎えに来た可能性も有るけど、それと同じくらい別のサーヴァントである可能性も高い。
 慎二とライダーはともかく、バゼットを襲ったような人種のマスターと、そのサーヴァントだとしたら、このまま無事にやり過ごせるとは思えなかった。

「さっきから妙に焦ってるね。
 まぁ、あまり話を長引かせるのもなんだし――率直に聞くけど、衛宮は聖杯戦争に望んで参加した訳?」

 慎二は、少しばかり呆れた様子を見せながら、こちらに尋ねてきた。
 聖杯戦争に望んで参加したかだって?
 そんなの、決まってる。

「違う。
 俺は、聖杯なんてモンに興味は無い」
「だろうね。
 じゃあ、なんかの間違いで巻き込まれたってわけだ」

 慎二の言葉に、黙って頷く。

「けど、それが桜にどう関係があるんだ?」
「桜さくらって、煩いな、お前。
 アイツが、お前と戦うのを嫌がってるんだ。
 衛宮が聖杯戦争に望んで参加したのなら、僕たちは敵対するしか無いけれど、違うのなら他の道もあるだろう?」
「桜が、戦うのを嫌がる?
 やっぱり桜も聖杯戦争のマスターなのか!?」

 思わず慎二に掴みかかりたい衝動に駆られるも、間のライダーがその進路をさり気なく塞いで、俺は一歩も動くことが出来なかった。
 ぐっと手を握り締めて、眩暈を起しそうなほどの動揺を必死になって耐える。
 ――桜が魔術師だというのは、ここまでの展開から言ってほぼ確実だ。
 でもだからって、この下らない戦争に、大切な家族が参加して欲しいなんて思わない。
 だから。

「違うよ。
 桜はマスターじゃない」

 慎二がそう事も無げに言った時には、正直その場に座り込みたくなるくらい安心した。

「そ、そうか。良かった」

 安堵の溜息をつく俺。
 慎二は、そんな俺に呆れたような様子を見せながら、言葉を続ける。

「けど、自分の兄貴と、部活の先輩が殺しあうのは誰だって嫌だろ?」
「俺もお前と殺しあうなんて、まっぴらごめんだぞ」

 どんな理由であれ、赤の他人とでさえ、殺しあうなんて遠慮願いたいんだ。
 それが、友人となれば、言うまでもない。
 慎二は、若干表情を和らげると、ライダーを押しのけ、俺の目の前へとやってきた。

「それを聞いて安心した。
 じゃあ、衛宮。お前さ、マスター降りろよ」
「え、ちょ、マスターってそう簡単に降りれるもんなのか!?」

 俺の言葉に、慎二が頷く。

「――衛宮は聖杯戦争のこと、何にも知らないんだな。
 マスターを降りたいなら、令呪を使ってサーヴァントを僕に譲ってくれよ。
 そうしたら、お前の分まで僕が戦ってやるから。
 衛宮は桜と一緒に、事が済むまでウチで隠れていれば良いんだ」
「俺の代わりに慎二が戦うだって――?
 そう言えば、お前は何でこんな下らない戦争に参加するんだ。
 生死をかけた戦いなんだろ?」
「間桐は魔術師の家だ。
 お前みたいな半端者と違って、まっとうな魔術師なら、聖杯を欲して当たり前だろ?」

 魔術師なら、聖杯を欲して当たり前――か。
 俺は目の前の友人の顔を、まじまじと見つめる。
 つい昨日まで、魔術師なんかじゃ無くて、普通のクラスメイトだと思っていた。
 その慎二が、人殺しをしてでも聖杯を手に入れたいなんて言い出すとは……。
 ――しかし。

「悪い。
 俺はお前に、サーヴァントを譲ることは出来ない」

 と、はっきりと告げた。

「――はぁ? なに言ってんの?
 戦争に参加したく無いんだろう?」
「戦争には参加したくない。
 けどそれは、俺のサーヴァントも同じなんだ。
 俺は彼女に、下らない戦いなどさせたくない」

 そうだ。
 キャスターは、聖杯を欲していないし、争いに巻き込まれることを望んでいない。
 だから、戦争を放棄するなら、俺たちは二人一緒じゃなきゃ意味が無いんだ。

 慎二が、一歩後ろに下がり、よほど驚いたのか、目を見開いてこちらを見ている。

「馬鹿か、お前!
 サーヴァントなんて、聖杯のための捨て駒だろ?
 そいつを僕に譲らないと、殺し合いをする事になるんだぞ!」
「サーヴァントは、捨て駒なんかじゃないぞ。
 彼女は、俺の大切な家族だし、お前を守っているライダーだって、在り方は違えど、れっきとした”ヒト”だろ?
 俺はお前と争いたく無いけど、その為に大切な家族を”譲る”なんて事、出来るはずが無い!」

 ――初めて、お互いに叫びあって。
 それで、その場に有った何かが、崩れ落ちたような気がした。
 みるみるうちに慎二の顔は怒りに歪み、その身を完全にライダーの後ろに隠す。

「付け上がるなよ、雑種の魔術師のくせに!
 人が優しくしてたら、いい気になって、馬鹿じゃないの!?
 ……ライダー!」

 慎二の叫び声に、ライダーの気配が揺れた。
 四肢を動かすことは無く、隠された両目でこちらを睨みつける。

「待て、慎二!
 サーヴァントを譲るつもりは無いけど、俺たちは聖杯なんて欲しくないんだ!
 お前と争いたく無い!」
「うるさい!
 サーヴァントを譲らないなら、お前には何の価値も無いんだよ!
 お爺様は、失敗したら捕まえて来いって言ったけど、どうせ殺すんだから関係ないな。
 死んじゃえよ、お前!」

 慎二が、懐から本のような物を取り出し、そう叫んだ。
 それと同時に、先ほどまで微動だにしなかったライダーの身体が沈む。

 ……まずい、俺、死ぬかも!

 そう漠然とイメージした瞬間。

「伏せろ、少年!」

 突然響いた声に、身を屈めた。
 同時に、耳を劈く爆音が響き、身体が強く締め付けられる。
 地面は遠く離れ、慎二とライダーから一気に距離が離れた。
 そのまま景色は弓道場を飛び出し、校門の外へと向かう。

「全く、世話が焼けるものだ」

 何がなにやら理解できない俺の耳元に、そんな涼しげな声が聞こえた。
 顔を上げると、そこには呆れた表情を浮かべた男装の麗人の姿が。

「ば、バゼット!」

 何で……!?
 驚きのあまり、叫ぶように声を上げた。
 バゼットは、俺の身体に右腕を巻きつけ、軽々と抱え込んで、駆け抜けている。
 確かに、俺は小柄だけど、それを片手で――いや、それよりなんで彼女がここに!?

「驚くのも良いが、少年も私の身体に腕を回してくれないか。
 片手で支えるのは、わりと辛い」
「う、あ、うん」

 バゼットの言葉に、俺は遠慮なんて取り払って、彼女のその細身の身体に抱きついた。
 そんな俺に満足げに頷くと、バゼットはさらにスピードを上げていく。
 ぐんぐんと流れ去る景色。
 人の身では、ありえない速度で進んで行く俺とバゼット。
 けど、その背後からは、強大な力が確実に近づいていた。





Next: 幕間〜少女マスター、初陣〜



| 長編 SS [Family Affair.] | 01:37 | comments(0) | trackbacks(0) |
スポンサーサイト
| - | 01:37 | - | - |
コメント
コメントする









この記事のトラックバックURL
http://m634.jugem.cc/trackback/13
トラックバック