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Family Affair. 幕間〜利鈍〜
 イラ、イラ、イラ。
 部屋の端まで行って、回れ右。

 イラ、イラ、イラ。
 また部屋の端に辿り着いて、回れ右。

 遅い。
 あまりにも遅すぎる。
 ふと、爪を噛んでいた事に気が付いて、八つ当たりだけど、余計に頭が沸騰した。

「人目が無くなる前に帰ってこいって言ったのに、ばか」

 独り言は空しく、古めかしい木造の室内に吸い込まれていく。
 晩御飯だって、材料の準備だけ終えて待ってるのに。
 結界だって、元から張られていた物を利用して、少ない魔力で上手くやったのに。
 遅い。
   遅い。
     遅い。

 まさか、何かあったんじゃ……!
 最悪の事態を考えて、顔から血の気が引いた。
 ……でも、二人の間を結ぶラインに異常は無いし。
 あぁでも、ラインが繋がっているからって、士郎くんが無事だって保証にはならないわ。

 イラ、イラ、イラ。

 身を保つのに精一杯の魔力しか残っていないこの身がもどかしかった。
 周囲の人間からこっそり生命力を奪うにしても、この屋敷は場所が悪く、式を張るにも力が必要になる。
 せめて士郎くんに拾われたあの山ならば、状況も変わったかもしれないけれど。

 イラ、イラ、イラ。

 狭い室内を、一体何往復しただろうか。
 いつも冷静であるべき魔術師の、その英霊たる私だけど、この苛立ちは一向に収まらなかった。
 ――馬鹿みたいだ。
 自分で自分が解らない。
 何を、ここまで苛立つ必要がある?
 この身の寄り代になっている少年が、帰ってこないだけじゃないか。
 そもそも私は、この世界に執着などしていなかった筈。
 なら、士郎くんの安否など、ここまで気にする事じゃ――いや、あの少年に対して、思い入れがあるのは確かだけど――。
 と、そこまで考えて、妙に顔が熱くなったその時だ。

「――っ!?」

 一騎のサーヴァントが、こちらに近づいてくる気配を感じた。
 それと同時に、自分のパスの繋がった先――つまり、私の寄り代である士郎くんも、こちらへ近づいてきている事に気が付く。
 それを感じて、私は思わず庭先へと飛び出した。
 直接攻撃の手段を持たない魔術師としては、致命的な判断。それに気付いているのに、動き出す身体を留めることは出来なかった。
 そして――

「キャスター!」

 飛び出すと同時に、ずっと聞きたかった声が届いた。
 真っ白な漆喰で塗り固めた塀を飛び越え、士郎くんが、昨夜の男装の魔術師と共に姿を現す。

「士郎くん、何があったの!?」
「学校で他のマスターとサーヴァントに会ったんだ!
 今、追いかけられてて――」
「来るぞ!」

 焦った様子の士郎くんの言葉を遮り、黒いスーツをまとったあのバゼットという魔術師が、己の来た道を振り返る。
 そして、その方向の塀の上には、士郎くんと同い年くらいの少年と、紫色の長い髪が美しい、仮面の――サーヴァントの女が立っていた。
 この二人が、士郎くんが学校で出会った”マスターとサーヴァント”ね。
 それを確認して、悔しさに奥歯を噛み締める。
 ――迂闊だった。やはり彼を外に出すべきでは無かったのだ。
 今更自分の浅慮を嘆いたところで、どうにもならないけれど……。

「追いかけっこは終わりかい、衛宮?」

 胸を反らすようにして、こちらを見下ろしてくる敵マスター。
 私の身体を、上から下まで舐めるように眺めてくる。

「キャスター、下がって」

 その視線から、私を庇うように間に立つ士郎くん。
 一分の迷いも無い後姿が、思いのほか頼もしくって、思わず縋りついてしまいたくなった。
 けれど――

「へぇ……何だ、なかなか良い女じゃん。
 これなら衛宮だって、一回くらいヤっちゃったんだろ?」
「なっ――!」
「えっ――!」

 それを見た敵マスターの放った言葉に、二人して慌ててしまった。

「や、ヤっちゃったとか言うな!
 あれは止むを得ん事情があってだな!」
「――何だ、適当に言ったんだけど、当たりだったの?
 さっきは偉そうに説教したくせに、大した優等生ぶりじゃないか」
「〜〜〜っ」

 気まずそうに頬を染め、顔を顰める士郎くん。
 それを見て、敵マスターの少年は、楽しむように笑みを浮かべる。

「だいたいお前、女と付き合ったこと無かったよな?
 じゃあ、その幽霊に筆下ろししてもらったってワケだ。
 お前にお似合いの、思い出深い初体験じゃないか」
「いい加減にしろ、慎二!
 いったいお前は何がしたいんだよ!」
「――はぁ? なんだよ、衛宮。
 自分が何で追いかけられていたのか、忘れたの?
 僕はね、お前をいたぶり殺したいんだよ! ……ライダー!」

 敵マスターは、その端整な作りの顔を歪めると、懐から一冊の本を取り出した。
 その本を通して、自分のサーヴァントに命令を下す。

 ――?
 ”本を通して、命令を下す”?
 私は、目の前で起こった魔力の流れに、首を捻る。
 聖杯戦争のマスターが、なぜ別の媒体を通してサーヴァントに命令する必要があるのだろうか。

 ”謎の本”経由で命令を受けたサーヴァント――ライダーは、殺気を伴って身を低く下げた。
 瞬間――。
 ゴウっと、風を切る音を立てて、黒い流星が落ちる。

「う、あぁ!」

 土砂を巻き上げ、響く轟音。
 的確に放たれた一撃は、士郎くんの胸を掠め、地面に深い穴を開けた。
 ――すんでの所で、バゼットが彼の腕を引いたのだ。

「呆けている暇は無いぞ!
 おまえは邪魔だ。霊体になって、どこかで隠れていろ!」

 バゼットは、怒りにも似た表情で私に怒鳴りつけると、そのまま士郎くんの襟首を掴み、強引に庭外れへと移動して行く。
 それを、何故か他人事のように見送ってる私に、ライダーは杭のような短剣の一撃を突き出した。

「きゃぁあああ!」

 無意識に悲鳴が零れ、間一髪その攻撃を避ける。
 一撃、二撃、続く攻撃に、必死になって逃げ回った。

 けど、それにも限界があって。

 目の前に迫る、ライダーの短剣。
   避けきれない――そう、諦めかけた時。

「キャスター!」

 力強い、士郎くんの声が聞こえた。
 そして――










「……え?」

 突然、赤い色が目の前に広がり、呆然と呟く。
 まるで時が止まってしまったかのように、目の前の光景が脳裏に焼きついた。

 私を庇うように、その成長途中の身体を、大きく広げる少年。
 その背中から、無骨な杭が飛び出している。
 やがてそれは、引き抜かれ――

「あ、あ……」

 スローモーションのように崩れる彼の身体を、支えるように抱きとめた。
 熱い、熱い液体が、私の身体を真っ赤に染める。
 必死に状況を理解して、回復呪文を口の中で呟いて。
 けれど、魔力の篭らぬ言葉に意味は無く、ただ、彼の命が零れていく。

 目の前で、ライダーが再び短剣を振りかぶるのを感じた。
 それが解っていても、身体を動かすことなど出来ない。
 だって、だって――

「馬鹿者!」

 その時、バゼットの怒号が響いた。
 同時に、今にもこちらに一撃を加えんとしていたライダーが、遠く吹き飛ばされる。

「――効いた!?
 そうか、屋敷の結界……」

 バゼットは、蹴り出した足を下ろしながら、一人納得したように呟いた。
 そう。
 この屋敷には結界が張ってある。
 ”敵は弱体化し、味方に強化補正がかかる”結界。
 元々張ってあった、敵の検出に特化したそれに、陣地作成の技術を応用して練り上げた物だ。
 だとしても、人の身でサーヴァントを蹴り倒すことなど、難しい事のはずだが――。

「生きてるか、少年!」

 バゼットは、慌てた様子でこちらに駆け寄ると、私の腕から士郎くんを引き離した。

「あ――」

 それに抵抗するように手を伸ばす私。
 そこへ、バゼットの蹴りが飛んでくる。

「ぐぅっ!」

 丸太で打ち付けられたような衝撃を腹部に感じて、思わずその場に蹲った。
 なぜ――?
 混乱しながらも顔を上げると、バゼットは怒りを通り越した冷たい表情で、こちらを見下ろしている。

「これ以上邪魔をするな。
 さっさと姿を消して、隠れていろ」

 冷たい、冷たい声。
 何かが壊れている、そんな恐ろしい声。
 バゼットはそれだけ言うと、士郎くんを抱えて再び庭外れへ駆け出した。

「何やってるんだ、ライダー!
 早く衛宮に止めをさせよ!」

 敵マスターの苛立つような声に、深いダメージを受け、蹲っていたライダーも庭外れへ駆け出す。
 それを見て、私は必死に身体を起した。

「させないわっ!」

 自分の軟弱な意識を奮い立たせるように叫んで、目の前を通り過ぎたライダーの腰に、腕を回して引き止める。


 魔力が無ければ、何も出来ない最弱のサーヴァント・キャスター。
 それでも、この身が有る限り、あの少年を――士郎くんを守りたい。
 何故、こんなにも彼を想うのか、それすらも解らずに。
 サーヴァント中、最高の機動力を持つライダーに、文字通り全霊を賭けてしがみ付いた。


 けれど、士郎くんからの魔力提供は途切れ――
    維持出来なくなった身体は、意思とは逆に霧散して消えた。





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| 長編 SS [Family Affair.] | 01:49 | comments(1) | trackbacks(1) |
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コメント
 時間も忘れて読みいってしまいました。続きがすごき楽しみです。
| アキ | 2004/05/19 10:59 PM |
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