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Family Affair. 一日目 その2「かすかな苛立ち」
 雨雲が月を隠し、目を開ければ、大きなの雨粒が眼球を叩く。
 そんな中を、どれほど走っていただろうか。
 ただ確かなのは、容赦なく振り続ける雨脚の勢いは、柳洞寺を出た時よりも一層と強くなっており、暗闇はさらに深くなっている――という事だけだ。
 次々と通り過ぎていく、この閑静な住宅街の灯りでは、その闇を打ち払うには余りにも頼りなく、ポツンポツンと等間隔に立つ街路灯でも、冷たい雨の姿を映し出すだけで、大した役には立っていなかった。
 そんな最悪な視界に、やっとのこと慣れ親しんだ我が家の外壁を見つけ、俺は腕の中の女性に叫ぶ。

「着いたぞ、俺の家だ!
 大丈夫か!?」

 すっかりと体温を奪われてしまった冷たい背中を支えるように、俺は回していた腕にぎゅっと力を込めた。
 しかし女性の反応は、こくりと、ただ俺の言葉に小さく頷くだけで、微弱なものだ。

 ――くそっ!
 心の中で、悪態をつく。
 何でこんなに一成の家は、俺んちから離れてるのか、とか。
 こんな日に限ってどうして大雨なんだ、とか。
 そんなどうしようもない事ばかり考えながら、辿り着いた門に手をかけ、思い切り体当たりするようにして扉を押す。
 しかし、古めかしい立派な作りのそれは、俺の力に抵抗するように「ガチャンっ」と低い音を立てると、変わる事無くその場に存在していた。
 つまりは、鍵が閉まっている状態なのだ。

 ――そうか、藤ねぇたちはもう帰ったんだな。
 一成の家で夕食をいただくというのは、ちゃんと連絡を入れておいた――という事もあるけど、ふと気付けば、普段でも二人は自分たちの家に帰っている時間である。
 それに気付いて、懸念していたことが一つ減り、ほっと安堵のため息をついた。
 いやだって二人が居る時に、身体の弱ったこのちょっと風変わりな女性を連れてきたとしたら、それはもう大騒ぎになっていただろ?
 いや、騒ぐのは主に虎の方だけれど、間違いない。

 俺は、門を蹴りつけるようにして右足を持ち上げると、そこに彼女を座らせて右手を自由にした。
 ポケットに手を突っ込んで、この目の前に立ちふさがる大きな扉の鍵を探す。

 イライライラ。
 ……あぁ、解ってる。
 自分でも解ってるんだ。

 イライライラ。
 桜か、藤ねぇか、そのどちらかによって丁寧に閉じられたであろう門の鍵でさえ、ウザったいと感じてしまうこの感情は、八つ当たり以外の何者でもない。
 解ってるんだよ、苛ついている全ての原因は。
 とてつもなくトロくて、鈍くさい自分。
 俺は、そんな自分自身の情けなさに怒りを覚えているんだって事を。

 馬鹿だ。
 意味が無い。
 そんな事を考える暇が有るのなら、冷静になって、これから彼女をどう治療するか考える方がずっと効率的だ。
 それは解っているのに、いっこうにこの苛つきは収まってくれなかった。
 あぁ、今日で二度目だ。
 こんなに自分が子供だという事を認識するのは。

 がちゃり。
 小さく金属音がして、やっと目の前の扉を開くことに成功した。
 握っているキーホルダーを回すようにして、門の鍵から玄関の鍵へと持ち替える。
 そして右腕を再び彼女の膝の下に差し入れると、支えに使っていた右足を下ろして抱え直した。
 クルリと反転し、背中で重い扉を押し開け、玄関へと向かう。
 がちゃり。
 もう一度、小さく金属音。
 今度のは、玄関の鍵だ。

「着いたぞ、ほら!
 もう玄関だ!」

 肩に凭れ掛かっている彼女に言いながら、取りあえずその身体を上り框に降ろして、玄関の灯りを点ける。
 柔らかな薄橙の蛍光灯の灯りは、すぐさま辺りの暗闇を打ち消して、濡れ鼠の二人の姿を照らし出した。
 そして俺の視線は、ぐっしょりと雨に濡れた彼女を染める、禍々しい血液の痕に釘付けになる。
 それは既に変色し、どす黒くなっていて――なんというか、暗闇を駆け抜けながら予想していたものよりも、うんと生々しく……思わず、ゴクリと唾を飲み込んだ。
 と、そこで、

「――そ、そうだ、止血!
 止血してなかったけど!」

 自分の犯した、とんでもない過ちに気がついて、慌てて駆け出す。
 靴箱に身体を預けるようにして座っている彼女の前にしゃがみ込み、そのフードに隠れた顔を覗いた。
 覗いた先には、当たり前だけど、今まで隠れていた彼女の素顔があって……

「あ――」

 その当たり前の事に、俺は声を奪われ、思考する能力も奪われてしまった。

「止血は、大丈夫よ。
 もともと怪我なんて無いんだから」

 間抜けな俺の声に、ゆっくりと呟く彼女。
 その言葉に、呆然とするしかない俺。
 暫しの沈黙の後、彼女はその綺麗な形をした唇の端をそっと持ち上げ、弱々しい微笑を浮かべた。






Interlude



「止血は、大丈夫よ。
 もともと怪我なんて無いんだから」

 そう呟いた私の声に、目の前の、蜜柑色の髪をした子供は、呆然と目を見開いた。
 当たり前だろう。
 何しろ彼は、私の”怪我の治療”をする為に、ここまで頑張ってくれたのだから。
 それは、元はといえばこの坊やの勘違いだったのだけれど、その勘違いに気付いていながら指摘しなかったのは私。
 ――申し訳ない事をした。
 そう確かに感じながらも、何故か……。
 何故か私は、寒さに固まっていた口角を、ゆっくりと持ち上がらせていた。

「今の――っ私は……」

 息苦しさに、途切れる言葉。
 限界が近い。
 それを感じながらも、気分は不思議と落ち着いている。
 ――何故?
 さっきから、そんな自問自答ばかり。

 ふぅと、小さく息を吐き、言葉を続ける。

「私は――とある事情で、この世と繋がる寄り代を失ってしまったの。
 寄り代を失った私は、ただ魔力を消費するしかなくて……こうして消え去ろうとしているわ」

 意図的に隠した事実――”寄り代を亡くした理由”。
 脳裏には、文字通り切り捨てた、私の元マスターの姿が浮かぶ。
 肝心な何かを見せない私の言葉に、気付いているのか、いないのか。
 目の前にしゃがみ込み、私の顔を覗きこむこの坊やは、「む」と、あからさまに眉を顰めた。
 しかしそれは、怒気や、苛立ちといったものでは無く。

「つまり、何だ」

 ぽつりと、坊やの口から言葉が零れる。
 それは、質問の意図で発せられたものでなくて。
 恐らくは彼自身の中で、自分の考えをまとめるためのもの。

「その寄り代って言うのを、何とかすれば良いわけだな?」
「……理解が早くて助かるわ」

 ――本当は、私の正体に気付いた時点で解って欲しかったけど。
 なんて、目の前の”魔術師見習い”に、心の中で小さく意地悪を言ってやる。
 そんな何でもない事に、再び口元が緩んでいくのを自覚した。
 何が、そんなに可笑しいのか、自分でも解らない。

 ただ馬鹿みたいに、見ず知らずの――それこそ得体の知れないこの私を抱きかかえて、必死に助けてくれようとしてくれたこの子の、純粋すぎるくらいの真っ直ぐさが眩しすぎて。
 だから、笑ったのかは、解らないけれど。

 ――私の笑みを、この坊やはどうとったのか。
 眉間に浮かべた皺をどこかへ追いやり、しっかりと私の目を見つめて、

「よし、解った。
 それで、俺はどうすれば良い?」

 なんて、聞いてきた。
 どうすれば良い?
 そんなの、未熟な魔術師である貴方には、出来ることは一つしかない。

「貴方が私のマスターになれば、私はこのままこの世界に有り続けることが出来るわ」
「よし、わかっ――」
「ただし」

 速答で快諾しようとした彼の言葉を、出来る限りの力を込めて押し留める。

 ――自分の気持ちが、曖昧になっていた。
 このままこの世界にあり続けたいのか、消え去りたいのか。
 いや。
 もしかしたら、聖杯戦争なんて下らない戦いに、このお人よしの坊やを巻き込みたくないと思っているのかもしれない。
 いやそれも違う?
 もしかしたら、この坊やに自分のマスターになって欲しいと思っているの――?

 混沌とした自分の思考に、自分自身が戸惑ってしまう。
 けれど、私の唇はそれと対照的に、すらすらと言葉を紡いでいく。

「私のマスターになれば、貴方は今までの生活に戻れなくなる。
 それこそ、生死を争う戦いに、巻き込まれるかもしれないわ――」

 ――全てを包み隠さず告げれば良いのに。
 伝説と呼ばれるほどの偉業を成し遂げた英雄たちが、生死をかけて争う聖杯戦争に、貴方は巻き込まれてしまうのだと。
 その戦いで、命の保証なんて、まったく出来ない。
 なぜなら自分はその聖杯戦争の中で、最弱と呼ばれるキャスターのサーヴァントなのだと。
 なぜ、言えないの?

 こんな子供に縋ってまで――私は、この世に復讐をしたいと願っているのだろうか。

 揺れる心、揺れる声、揺れる目線。
 しかし、目の前の坊やの声には、そういった迷いは一切無かった。

「そうなったら、そうなった時だ」

 きっぱりと、言い放つ。

「アンタを助ける。
 見捨てる気は無いと、ここに来る途中にも誓ったはずだ」

 真っ直ぐすぎる、坊やの言葉。

 ――何も解ってないくせに。

 ほんの少しの苛立ち。
 それと共に、

 ――貴方のサーヴァントになる事が、私の助けになるとは限らないのよ?

 なんて意地悪な言葉が、喉元まで上がってきて。
 しかしその言葉は、口元に浮かんだ笑みに、押し留められてしまった。

 そう。
 私はこの子の、何の見返りも望まない誓いの言葉に、心の底から笑みを浮かべていた。
 理由は、解らない。
 解らないけど、それなら私がこれからすべき事も、きっと一つのはず。

「――わかったわ。
 それじゃ、目を閉じて下さる?」

 小さいため息と一緒に、呟いた言葉。
 この子が魔術師だと解ってから、ここに辿り着くまでの間、多少の覚悟はしてたけど。

「目を、閉じれば良いんだな?」

 私の言葉に、素直に目を閉じた坊やを見ると、どうしても罪悪感が拭えない。
 というより本当は、こういう事は苦手だったりするのだけれど。

「良い?
 坊やは、私に任せてくれれば良いから」

 言い馴れない言葉を呟いて、私も彼と同じように目を閉じる。

 その時、脳裏に浮かんだのは、私を利用して、捨てていった男たち――。
 思えば、私は彼らに何もかもされるがままで。
 こうして、自分から――などと言う事は今までに、一度足りと無かった。
 それも、まだまだ幼さの抜けない、成長途中の子供を相手に、だなんて。
 そこまで考えて、私は自分の耳が燃え出したのかと思うほど、熱くなるのを感じた。

「……っ!」

 その熱が堪らなくって、思わず閉じた目を見開いてしまう。
 目の前には、相変わらず馬鹿正直な様子で目を閉じる少年。
 その姿を見て、少し慌てて「これは契約のための魔術で、私がこの世に残るために行う行為なのだ」と、自分に言い聞かせた。
 だって私はキャスターのサーヴァント。
 そして、コルキスの悪名高き伝説の魔女・メディアなのだ。
 こんなことくらいキチンとやり遂げられなければ、キルケ伯母様に笑われてしまう。

 ――再び目を閉じる。
 あぁ、今頃顔まで真っ赤なんだろうな……などと、自分の状況を予想しつつ、これ以上余計な事を考え出す前に、やるべき事を行動に移した。



Interlude out





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