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Family Affair. 二日目 その2「彼女の名前」
 ――あぁ、神様。
 俺はとても気分が良かったんだ。
 そりゃ、突然見知らぬ女の人を抱くことになったり、
 それが終わって、再び目が覚めてみれば、何故か台所で寝ていたり、
 けったいな事ばかりで、面食らってはいたけれど。
 それでも、彼女が元気な姿で目の前に立っているのが嬉しくて。
 俺はとても気分が良かったんだ。
 だと言うのに。

「無事も何も、互いの間にパスが通ってるのが解らないかしら?
 相当な量の魔力が、私に流れているのよ?
 いくら魔術師の見習いだからって、それは無いわよ、坊や」

 ふぅー、やれやれ。
 なんて言葉が聞こえてきそうな表情で、当の彼女が肩を竦めるのだ。
 ……えぇ、まぁ。何と言いますか。はい。
 視線の先の彼女は、心底呆れたような表情を浮かべていて。
 一方俺はと言うと、握り締めた拳がブルブルと震え、眉間の皺がグランドキャニオンの如く雄大な渓谷を作り出していた。

 あはは、なるほど、なるほど。思わず笑ってしまうじゃないか。
 だって、こちらは貴方を思って口にした言葉だったというのに、
 その貴方が、そういう態度に出るわけなのですね――って、こ、の、や、ろ、う!

「こっちは素直に喜んでるんだ、そんな言い方無いだろう!」

 プツンと、脳内のどこかが切れる音がして、俺は足を踏み鳴らした。
 彼女は、そんな俺の剣幕に驚いて身を引くと、まじまじとこちらを見つめてくる。

「……」
「な、何だよ!」

 じーっと、こちらを見つめる彼女。
 苛立ちにまかせて怒鳴り散らしたというのに、その相手に無言で居られると、とんでもなく居心地が悪い。
 それに、なんというか――彼女はやはり美人なのだ。
 それもただの美人じゃ無くて、とんでもなく人間離れした美人なんだよ。
 昨夜は、その顔がフードに隠れていて、ろくに窺うことが出来なかったし、やっと顔が見れたかと思えば、あんな状態になってしまったわけで。
 こうして明るいところで顔を合わせると、正直どうしたら良いのか解らなくなってしまうのだ。
 けど、そんなことで動揺しては、あまりにも情けなく――

「だ、大体だな、俺は坊やじゃ無いって何回言わせれば気がすむんだ!
 俺の名前は、衛宮士郎だって、昨日言っただろう!」

 なんて、誤魔化すようにして捲くし立てた。

「……」
「……」

 また、ちょっぴり流れる沈黙。
 ――まずい。もう叫ぶ材料が無い。
 叫ぶ材料が無いって事は、俺にはもう、攻撃できる材料がないって事だ。
 攻撃できる材料が無いって事は、防戦一方になるしかないって事でもある。
 不覚だ。
 藤ねぇを相手にした時には、決してこんな事にならないのに。
 ――彼女は、そんな俺を見透かすようにして表情を緩めると、ゆっくりと口角を持ち上げる。
 あ、これはもしや、反撃が始まるのかっ!? なんて思って、身構えていると、

「えぇ、そうだわね。
 私が悪かったわ、士郎くん」

 と、あの幼子を見守る母親のような表情ってヤツで、謝罪の言葉を述べてきたのだ。

「うっ」

 その言葉に、俺は思わず唸ってしまった。
 だって、早いよ。あっさりしすぎだよ。
 俺、怒鳴ったんだぞ?
 そりゃーもう、しこたま本気で怒鳴り散らしたんだから、怒鳴り返すなり、からかって来るなりしてくれないと、まるっきり俺が子供みたいじゃないか。
 その現実に、あんまりにも自分が情けなくなって、俺は額に手をやった。

「うー、あーうん。
 解ってくれれば良いんだ」

 歯切れの悪い言葉。
 先ほどまで、張り切って怒鳴っていた分、余計にそれが痛々しい。
 そんな俺を見て、彼女は小さく笑い声を上げた。
 ――むぅ。

「酷いな、笑うなよ」

 それがちょっぴり悔しくて、拗ねたような口調で言う。
 彼女は、そんな俺にいっそう眉尻を下げて、

「フフ、だって士郎くんが、あんまりにも可愛らしいのですもの」

 と、クスクス笑った。

 か、可愛らしい!?
 それは、衛宮の家に入って10年間、己に対してでは、初めて聞く形容詞だ。
 確かにレアではあるけれど、可愛らしいなんて言われても、俺はちっとも嬉しくなんか無いぞ。
 ――嬉しくはないんだけれど。

「どうしたのかしら?
 ぼうっとして――」

 急に黙り込んでしまった俺を、彼女が心配げに見つめる。
 いや、何と言うか、俺は。
 ただ単に、彼女の浮かべる笑みがあまりに美しすぎて、その姿に見惚れていただけだ。
 そういや俺、昨日はこんなに綺麗な人と、あんなことやっちゃったんだよな――なんて事を考えて、慌てて首を振った。
 ――駄目だ。
 あれは、ただの契約なんだ。
 こんな風に何度も思い出して、胸を熱くしてはいけないものである。
 そう。そんなことよりも――

「なぁ俺、まだアンタの名前を聞いてないんだけど」

 出会ったら一番に尋ねようと思っていた質問。
 また混乱して忘れそうになったけど、今度はちゃんと正面から尋ねる事が出来た。
 けれど――。

「私の、名前――ね」

 今度は、彼女が困ったように眉を顰め、視線を庭先へとそらした。
 その白魚のような指を口元によせて、なにやら考え込んでいる。

「メディ……いいえ。キャスター。
 私のことは、キャスターと呼んでいただける?」
「キャスター?」

 いや、そりゃさすがに名前じゃ無いだろう。
 あんまりな呼び名に、思わずそう問い詰めようとしたのだけど――彼女が心底困った顔をしているのを見て、それを思い止まった。
 何で名前一つでそんな顔するのかな?
 なんて事も思ったけど、それも何となく尋ねられない。
 うーん。
 ポリポリと、痒くも無い頬を掻いて、意味も無く空を見上げた。

 ――朝の気持ちよい空気と、快晴の青空。
 それは、どこまでも晴れやかで。

 まさか”大河”とか、そんな名前なんじゃ無かろうか?
 などと、無粋な事を考えながらも、
 まぁ、彼女がそう呼べと言うのなら。と、自分を納得させた。

「分かった、キャスター。
 そう呼ばせてもらうよ」
「えぇ。そうして貰うと助かるわ」

 俺の答えに、申し訳なさそうに苦笑するキャスター。
 まぁ、結果はどうであれ、一番にしたかった事はやり遂げたわけなのだから、彼女には、あまり気にしないでもらいたい。

 さて。あと俺がやる事と言えば――

「それじゃ、キャスター。
 これ、どうもありがとう」

 ぺこりと、頭を下げながら、抱えていたローブを謹んでお返しした。
 これも、彼女と会う前に、やろうと決めていた事の一つだ。
 キャスターは、俺の手からそれを受け取ると、にっこりと微笑みを浮かべる。

「いいえ、どういたしまして。
 ……一応言っておくけれど、このローブは、きちんと乾かしてから使ったから、安心しなさいね」
「あぁ、解ってるよ、そりゃ」

 冗談めかした風に言う彼女に、俺は苦笑しながら答えた。
 いや、あれだけ丁寧な寝床を用意してくれる人だ。
 その人が、まさかこの冬場に、濡れたローブを布団代わりにするとは思えない。
 しかし――

「でも、何で台所なんかに寝かせたのさ?」

 沸き起こる、当然の疑問。
 キャスターは、自分のローブと座布団で布団のようなものを用意してくれた上、枕まで作ってくれた人だぞ? (しかも顔が当たる部分には、洗濯済みの布巾まで巻いてあった)
 そこまでしてくれたにも関わらず、何で台所なのか、その理由が解らない。
 彼女は、俺の言葉に一瞬きょとんと首をかしげると、不思議そうな表情を浮かべてこちらを見た。

「えぇ、でも、士郎くんの部屋が解らなかったから、一番貴方の思念が残留している部屋に寝かせたのよ?」

 ――あぁ、成る程。
 そりゃ普通は、一番思念が残留している場所ってのが、自室だわな。
 俺はその言葉に妙に納得しつつ、微妙な気分になった。
 つまり何だ。
 俺は、自分の部屋よりも、台所の方に執着を持っているという事か。

「それとも、あの庭はずれの建物がそうだったのかしら?
 確かに、あちらの方が強く思念を感じたのよ。
 でも、母屋から離れているから――」
「いや、あそこは土蔵だよ。
 俺の部屋は、こっち」

 未だ不思議そうに首を傾げている彼女を、促すようにして歩き出す。
 そう言えば、まだ着替えてなかったし、部屋を案内するのには丁度良かった。



「ここ、ここだよ。
 俺の部屋」

 襖を開けて、室内へ入る。

「やあね、何も無いじゃないの」

 続けて入ってくる彼女が、きょろきょろと周囲を見回しながら、そんな事を言った。
 確かに。
 俺の部屋には、あまり物が無い。
 無趣味――という事もあるのだけれど、やっぱり俺はこの部屋に対して、あまり執着心を持っていないのだろう。
 土蔵や、台所の方が、よっぽど自分の物で溢れているし、寝る時でさえ、ここへ帰ってくる事は少ないのだ。

「まぁ、そう言うなよ。
 これはこれで、気に入ってるんだ――って、あれ?」

 言いながら、箪笥を開いたところで気が付いた。
 そういや俺、制服はどうしたんだろうか?

「キャスター、俺の昨日着ていた服、知ってるか?」

 いや多分、彼女が俺を寝かせる時に、濡れていたそれを脱がせてくれたのだとは思うけど。
 それでも、自分で寝ぼけて脱ぎ散らかした可能性も捨てきれないので、そう尋ねてみた。

「昨日の?
 あぁ、これの事ね」

 俺の問いかけに、どこからとも無く制服を取り出すキャスター。

「いろいろ汚れていたから、綺麗にして乾かしておいたわ。
 どう? 問題ないかしら?」

 その言葉に、手渡されたそれに目をやる。
 ――うん。まるで新品のような綺麗さだ。
 クリーニング屋に頼んだって、こんな風にはなるまい。
 彼女が、それをどのように行ったのかわからないけど、その行き届いた気遣いに、俺は素直に感謝した。

「ありがとう、キャスえもん」
「キャスえもんって何かしら?」

 ――いや、素直に感謝したはずなのだけど。
 俺の言葉に引っかかったのか、キャスターは不機嫌そうに目を細める。
 いや、だってさ。突然どこからとも無く制服取り出したりするから、何となく、思い浮かんだだけなんだよ。

 しかし、きちんと礼を尽くさぬ言葉が、感謝となるわけが無い。
 俺は、彼女に向き直ると、

「悪い。今度はちゃんと言うよ。
 ――ありがとう、キャスター」

 と、心の底から感謝の言葉を伝えた。
 その、言葉に――

「どういたしまして、士郎くん」

 そう答えたキャスターの嬉しそうな顔は、とてつもなく綺麗だった。





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