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Family Affair. 二日目 その4「お姉ちゃん、襲来」
 カツリ、カチャリ
 箸と食器がぶつかる音が、いやに大きく聞こえる。
 目の前には、藤ねぇが座っていて。
 何だか不安そうな顔つきで、こちらをチラチラと盗み見しながら、朝食を口に運んでいる。

「うー、士郎ぅー」
「何だよ?
 箸を口に咥えるのは行儀が悪いぞ、藤ねぇ」

 愛想の無い俺の答えに、藤ねぇは珍しく素直に頷いて、箸を口から放した。
 そして、言い辛そうな表情を浮かべながら、周囲を見回し、

「ねー、桜ちゃんはどうしたの?」

 と、尋ねてきた。
 まぁ、この状況で藤ねぇが気に病むことといえば、それしかないけれど。
 そんなこと、俺の方が聞きたいわけで。

「分かんない」
「何かあったの?」
「何かはあった」
「そんな言い方じゃ、お姉ちゃん解んないわよぅ」

 うー。と、藤ねぇが頬を膨らます。
 不機嫌そうな表情を浮かべながらも、その目は心配そうに細められていて。
 その様子を見て、やっと自分の未熟さに気が付く。
 ――馬鹿だな、俺。
 藤ねぇに冷たく当たっても、何の解決にもなんないのに。

「あ……すまん、藤ねぇ。
 桜は、その、ちょっとあって、出て行っちまったんだ。
 喧嘩をしたとか、そういうワケじゃ無いんだけどさ」

 うん。
 喧嘩をしたわけじゃ無いよな、あれは。
 なんて、先ほどの出来事を思い出しながら答える。
 その答えに、藤ねぇは驚いたように目を見開き、プルプルと震えだした。

「ま、まさか、士郎……」
「なんだよ?」

 いや、こういう流れの藤ねぇっていうのは、ロクな事を言い出さないのだけれど。
 それでも一応、先を促してみた。
 しかし――

「若さ余って、桜ちゃんを襲ったんじゃないでしょうね!」

 訂正。
 藤ねぇには、冷たいくらいで丁度良い。
 つか、なに「我、答えを得たり!」みたいな顔して叫んでやがる!

「んなコトするか!」
「じゃあ、どうしたのよう。
 うぅーこんなことなら、藤村の朝食は食べないで、直接こっちに来れば良かったかなー」

 失敗、失敗。などと呟きながら、藤ねぇは自分の頭をコツンと叩いた。
 いや、藤ねぇ、藤村の家でも朝飯を食ってたのかよ。
 妙に納得しながら、それに対するツッコミはスルーしておく。
 ――この分だと、晩飯も二回食ってやがるな。
 なんて事を考えながら、俺たちは食事を再開した。

 藤ねぇと、俺。
 二人だけの朝食。
 今ここに、キャスターの姿は無い。
 桜が家を出て行って、暫くして戻ってくると、既にキャスターは姿を消していたのだ。
 気配が消えたわけでは無いから、恐らくは彼女が言っていた”霊体”の姿になって、この家のどこかに居るのだと思う。
 しかし、なぜ姿を消したのかは、解らない。
 あんな事になって、俺が怒っているとでも思ったのだろうか。
 それとも、他に理由が?
 予想をしたところで、正しい答えなどわからないけど。
 キャスターと桜――二人の女性から取り残される形になって、呆然としていたところで、いつものように藤ねぇがやって来て。
 桜が仕上げの段階まで済ませていた朝食の準備を終わらせ、今に至る。

 キャスターには、聞かなきゃいけない事がたくさんあった。
 桜のことは勿論そうだ。
 それと、彼女自身のことも聞かなきゃいけない。
 聞かなきゃいけないし――近くに居るのに姿が見えないというのも、何だか嫌な気分になる。
 何で、黙って姿を消すなんて事をするのかな。

「くそう」

 腹の底から湧き上がる苛立ちが、小さく声に出てしまった。
 ハッと気付いて顔を上げると、せわしなく動かしていた手を止めた藤ねぇと目が合う。

「士郎」

 先ほどの不安げな表情とも、ふざけた様な表情とも違う、真剣な顔。
 けど。

「ぎゅっとして、わしわしして、ちゅーしてあげようか?」

 口から紡がれた言葉は、その表情とあまりに不釣合いなもので。
 しまった。と、俺は心の中で舌打ちした。
 藤ねぇがこんな事を言い出すのは、いつも決まって俺が落ち込んでいたり、傷ついていたりする時だ。
 つまり今の俺は、ぎゅっとして、わしわしして、ちゅーしてやりたいくらい、様子がおかしいという事だろう。
 自分では、落ち着いているつもりだったけど、やはり長い付き合いの藤ねぇには、この動揺が伝わっていたらしい。
 情けないなぁ、まったく。
 朝っぱらから、家族を泣かせたり、心配させたり、本当に情けない。
 だから。

「馬鹿、いいよ。
 子供じゃあるまいし」

 俺は出来る限りいつもどおりに、そう素っ気無く答えた。
 ちらりと藤ねぇの顔を窺うと、今度は心底不愉快そうに、むーっと頬を膨らませている。
 そして徐に箸をその場に置くと、

「もー、バカなのは士郎の方でしょー!」

 言って、視野の中からその姿を消した。
 ……え、いや、視野から消えるって、なんなのさ!? と、動揺した瞬間。

「とぅー!」
「どわー!」

 う、上から!
 上から掛け声と共に、藤ねぇが降ってきた!

「なによー!
 なにそんなに落ち込んでるのよ、ばかー!
 お姉ちゃんに教えなさーい!!!」

 ぎゅーっとして、わしわしわしと、髪の毛がメチャクチャに撫でられまくる。

「痛っ!
 痛いし、何だこれ、や、柔らかい……!?
 って、ちょっと待て、藤ねぇ!
 朝っぱらから何やってるんだ、アンタは!」
「うがー! うるさーい!
 桜ちゃん居ないし、士郎元気無いし、お姉ちゃん寂しいでしょー!!」

 わしわしわしわし。
 押し倒される形で抱きしめられ、髪の毛を無茶苦茶されるのは、正直痛くって。
 でも、顔の辺りにあるこの柔らかいのは、たぶん藤ねぇの胸なわけで。
 それが、思っていたよりもずっと柔らかく――って、駄目だ、俺! 何考えてるんだ!?

「ちょっと、マジで!
 藤ねぇ、頼む、勘弁してくれ!」
「勘弁しないもん!
 士郎がちゅーしてくれるまで勘弁しないもん!」
「おい、待て!
 いつからそういう話になった!?」

 この体勢にも、状況にも耐えられなくて、腹筋を使って無理やり身体を起した。
 起せば起したで、膝の上に藤ねぇが跨り、お互いの顔が目の前にある状態になる。
 それはとても気まずくて、顔を逸らそうとしたけど。
 藤ねぇは両手で俺の頬をしっかりと押さえると、それを許してはくれなかった。

「ねぇ、士郎?
 お姉ちゃんじゃ、士郎の力になれない?」

 コツンと、額を合わせ、囁くみたいに藤ねぇが言う。
 その顔は、どこか寂しげで。
 そんな藤ねぇに呆れたのか、安心したのか。

「んなわけあるかよ。
 つーか、そんなに俺、落ち込んでたか?」

 信じられないくらいに気分が落ち着いて、顔には苦笑が浮かんでいた。
 藤ねぇは、その俺の笑みが気に食わないのか、再び頬を膨らます。

「もう、士郎って本当に自分の痛みに鈍感なんだから。
 泣きたい時には泣けば良いんだし、辛い時にはお姉ちゃんを頼って良いんだよ?」
「んな事言っても俺、そう何時までも子供じゃないんだし」

 藤ねぇの言葉に正直に答える。
 しかしその台詞が、どうやらまずかったらしい。
 漫画みたいに藤ねぇの眉が釣りあがって、顔が真っ赤になっていった。
 やばい――なんて、思う暇も無く。

「何言ってんのよ、子供じゃないの、ばかー!
 もぉー士郎なんて、こうだー!」

 言って、藤ねぇは、ちゅーっと俺の額に吸い付いた。
 そしてそう感じたのも束の間、次の瞬間には既に俺の膝から離れていて、廊下近くの襖まで移動している。

「今度そんな事言ったら、口にちゅーしてやるんだからねー!」

 ビシっ! と、俺を指差しながら、藤ねぇが言う。
 そしてそのまま襖を乱暴に開くと、ドタドタドタと出て行ってしまった。

「な、何だったんだ、一体……?」

 ――今日は、我が家から女性が突然居なくなる日なのだろうか?
 あまりの出来事に、呆然とそんな事を考えていると、再びドタドタドタと荒々しい音が廊下から聞こえた。

「……」

 そして、無言で現れる藤ねぇ。
 気まずそうにこちらと目を合わせようとせず、そのまま自分の皿に残っていたダシ巻き卵をほおばって、再びドタドタと居なくなる。

 しんと静まる居間。
 いや、何と言うか……。

「は……、はは」

 思わず、笑い声を漏らしてしまう。
 藤ねぇらしいというか、らしくなかったというか。
 それより俺は、そんなに落ち込んでいたのだろうか、とか。
 何がなにやらよく解らなくなっていたけど。
 うん。
 とにかく、桜が用意してくれた朝飯を、残さず美味しくいただいて。
 んで、会いに行こう。
 キャスターからでなく、本人から直接話を聞こう。

 元気をくれた藤ねぇに感謝しつつ、俺は箸のスピードを上げた。





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