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Family Affair. 二日目 その5「真昼の会合」
 昼休みの学校――その屋上に、人影は無かった。
 それもそうだ。
 いくら晴天とはいえ、こんな冬の寒空の下、好き好んで冷たい風に吹かれようなどと思うヤツは、なかなか居ないだろう。
 大抵の場合、教室の暖房で暖を取ったり、学食で昼飯を食ったりするものだ。
 それは、俺だって例外じゃない。
 普段の昼休みならば、教室や、一成と一緒に生徒会室で過ごしたりする。
 けれど、今日はそういうわけにはいかなくて。

「キャスター」

 階段に繋がるドアや、階下の教室からは死角になっている給水塔の影に腰を落ち着け、彼女の名を呼ぶ。

「居るんだろう?
 出てこいよ」

 冬特有の、少しばかり白んだ青空を見上げながら呟くと、その視野に紫のローブが踊った。
 直後、貧血を起したみたいに、膝がガクリと落ちる感覚に襲われて、体中の魔力がごっそり持っていかれる。
 なるほど、これが霊体と実体の消費魔力の差なのかと、朝には気が付かなかったことを考えながら、それでも必死に平気な顔をして見せた。
 キャスターは、そんな俺の変化に気付いているのか、いないのか、その美しい眉を緊張に顰めている。

「気付いていたのね」
「あぁ。
 だって、パスが繋がってるって言ったのは、キャスターじゃないか。
 そこまで言われて気配がわからないほど、俺も鈍感じゃない」

 言いながら、持ってきた弁当を取り出し、その包み布を自分の隣に広げるようにして置いた。
 キャスターを見ながらポンポンとそれを叩くと、彼女は俺の意図を理解して、そこへ腰を下ろす。
 それを見届けると、今度は弁当の蓋を開け、それに中身を取り分けていく。

「悪いけど、一人前しか無いから、半分こな」

 男にとっちゃ、少し物足りない量になってしまったけれど、彼女はこれで腹が膨れてくれれば良いな――なんて考えながら、クラスメイトに譲ってもらった、コンビニの使い捨てフォークを添えて、中身の半分をそれなりに盛り付けた弁当箱の蓋を彼女に差し出した。
 キャスターは、緊張の表情から一転、目をぱちくりさせながら、それを受け取る。

「士郎くん、私は使い魔なのだから、食事は必要無いのよ?」
「知ってる。
 けど、食べたくないってわけじゃ無いんだろう?」

 納得がいかない様子のキャスターを尻目に、俺は一人、手を合わして食事に感謝の意を示してから、それに口をつけた。
 いつもの倍くらいゆっくりと咀嚼して、出来るだけ満腹感を促すようにする。
 彼女は暫く呆れた様子で俺を見ていたけど、やがて諦めたようにため息をつくと、フォークを手に取った。

「――あら、おいしい」

 何気なく呟かれる言葉。
 視線を向けると、キャスターは頬を膨らましながら、もぐもぐと口を動かしていた。
 それは、彼女のイメージよりもずっと幼い仕草で、何だかとても微笑ましい。
 けれど。

「そうか。
 それ、桜が作った朝飯の残りだ。
 ぜひとも本人にその感想を伝えてやってくれ」

 俺の言葉に、キャスターは再び表情を曇らせた。
 どこか恐れを抱いているような、緊張しているような雰囲気で、顔を背ける。

 ――そう。
 桜は、学校へ来ていなかった。
 教室から部活、職員室にまで行って確かめたけれど、その姿を見つけることが出来なかったんだ。

「キャスター。
 桜が――朝ウチに居た女の子が、学校に来ていないんだ。
 それってやっぱり、アンタが言ってた事が関係してるんだろ?」
「それは……」

 言いにくそうに呟いて、キャスターは親指の爪を噛む。
 それを、俺は黙って眺めていた。

 ――焦る気持ちは、もちろん有る。
 今すぐキャスターを問い詰めて、桜がどうしてあんなに悲しんでいたのか聞き出したい。
 でも、そんな衝動を必死になって抑えていた。
 ここで爆発したって何の意味も無い。
 大体、キャスターが悪いのか、悪くないのかも解らないのに、そういうのは良くない。
 きっとまた朝の言い争いの繰り返しになってしまう。
 俺は、出来る限り平静を保ち、辛抱強くキャスターが口を開くのを待っていた。

 そして、暫くの沈黙の後、キャスターは真剣な眼差しでこちらに顔を向ける。
 やっとその口から、事の顛末を聞けるのかと思ったその時。

「士郎くん、あなたはあの子が魔術師だという事は知っているかしら?」
「――は?」

 キャスターの言葉に、全ての思考回路が停止した。

「やはり知らないわよね。
 貴方、魔術師見習いなんですもの。
 それにあの少女自身が、それを隠していたから」

 桜が魔術師?
 それを、桜自身が隠していた?
 キャスターはいったい、何を言っているんだ?

「ちょ、ちょっと待ってくれ。
 一体なんの話なんだ?」

 頭がぐるぐると混乱する。
 何しろ、昨晩から色んな事が起こりすぎなんだ。
 脳みそが考えることを拒否して、オーバーヒートしたみたいに熱を持つ。
 けれど、俺はその話の先を聞かなくちゃいけなくて。
 そしてその内容を、理解しなくちゃいけないという事だけは、ハッキリと解っていて。

 ふらつく頭に手をやり、キャスターに身体ごと向き直った。
 吹き曝しの屋上に、冷たい北風が通り抜ける。

「マスター、貴方も魔術師ならば、冷静に物事を受け止めて。
 桜という少女は立派に魔術回路を持った、魔術師に間違い無いわ。
 それも、自分の力を秘匿できるくらいの実力を持っている――貴方よりも技術のある魔術師」
「は――ぁ、そ、そうなのか?
 さく……らが?」

 呆けたように開かれた口から洩れた声は、あまりにも間抜けな響きだった。
 けれど、これが今の俺にとって、精一杯の冷静な声。

 ――桜が、魔術師。
 俺よりもずっと魔術に詳しいであろうキャスターが言うのだ。
 まず、間違いない情報なんじゃないのか。

 落ち着け、落ち着け、落ち着け――。

 大体、俺を拾ってくれた親父だって魔術使いだった。
 昨日は、目の前に居る使い魔のキャスターを拾ったりもしている。
 ならば他にも魔術に関わる人間が、身近に居たとしても不思議では無いんじゃ……。

「な、なら――、
 今朝キャスターが言っていたのは、桜が魔術師だって事なのか?」

 魔術師である事を隠していた桜は、それがバレてショックを受けたと?

「いいえ。
 私が言いたかったのは、その事では無くて――。
 恐らくあの子の魔術回路は、誰かに意図的に改造されたものなのよ」
「改造?」
「きちんと調べたわけでは無いし、そもそもその類の解析は専門外だから、確かな事は言えないけれど。
 彼女の身体から感じる魔力は、どう考えても自然なものでは無いわ。
 ゆっくりと、時間をかけて改造したものだと思うの。
 解る? 魔術回路の改造よ?
 そんなの、正常な精神の持ち主に耐えられるものでは無いわ」

 桜は、魔術師で、その魔術回路は改造したもの――?

 魔術回路っていうのは、身体を走っている神経と似たようなものだ。
 それを改造するっていうのは、普通なら考えられない。
 簡単に出来る事では無いはずだし、出来るとしても、それ相当の技術や苦痛に耐える精神力を必要とするだろう。
 それを桜は行っていると、キャスターは言うのだ。

「――うん。大体事情は解った。
 つまりキャスターは、桜の身体に無茶な改造を見つけて、それで朝のセリフを言ったわけだな」

 俺の言葉に、キャスターは頷く。
 ――そうか、うん。
 それで、桜は俺に魔術師って事や、身体を改造していることを知られたくなくて、家を出て行ったって事なのか?
 あぁ、それに彼女が魔術師ならば、キャスターが使い魔だという事に気が付いた可能性がある。
 だとしたら、俺が魔術師という事にも気が付いただろうか?
 それとも、前から知っていたのか?
 ……うーん。

「まぁ、あれだ。
 今ここでアレコレ考えた所で、答えなんて出てきやしない。
 とにかく桜に会わなきゃいけないな」

 結局、それが最優先だ。
 何がなにやら、解らないことだらけで混乱してしまうのだけれど、やっぱり直接本人と話し合ったほうが良い。
 それで、思っていることをハッキリ伝えるんだ。
 桜が魔術師だろうが、なんだろうが、家族って事には変わりないって。
 ――などと考えながら一人頷いていると、

「待って、士郎くん。
 あの子と会うのは、聖杯戦争が終わってからの方が良いわ」

 と、キャスターが慌てた様子で言ってきた。

「え、なんでさ?
 ――聖杯戦争って昨日も言ってたよな。
 それっていったい何なんだ?」

 俺の言葉に、キャスターは気まずそうに顔を顰める。
 どうやら彼女は、この話題に触れたくなくて、先ほどから緊張した面持ちだったらしい。

「聖杯戦争とは――」

 言い辛そうに、口を開くキャスター。
 それから説明されたことは、あまりにも突拍子がなくて。





「つまり、自分の願いを叶えるために、魔術師同士が召喚したサーヴァントを使って殺し合いをするって事なのか?」
「そうよ。
 そして私は、そのサーヴァントの一人、キャスターなの」

 ――はぁ。
 胸に溜まった息を吐き出した。
 いい加減、頭がおかしくなりそうだ。
 キャスターと唐突に出会い、桜が魔術師だと判明して、今度は聖杯戦争だって?

「でも安心して。
 貴方の身体には、マスターの証である令呪が無い。
 このままひっそりとやり過ごせば、何とかその戦いに巻き込まれずに済むかもしれないわ」
「あぁ、それは助かる。
 俺は叶えてもらいたい願いなんて無いし、そもそもイカレた殺し合いに参加したいとも思わない」

 話を聞く限りじゃ、その戦争はイカレてる。
 自分の願いを叶える為に、他人を殺すだって?
 馬鹿な。
 そんな馬鹿げた戦いに身を落とす気も無ければ、キャスターを使役するつもりも無い。
 だけど。

「キャスターが聖杯戦争が終わるまで桜に会うなって言うのは、つまり彼女がそのマスターとやらになっている可能性があるからなのか?」

 それも”馬鹿な”と、思いながら尋ねた。
 だって有り得ない。
 桜が、そんな戦いに参加するなんて。

「えぇ。
 聖杯戦争には、七人のマスターが参加する――つまり、この小さな街に七人もの魔術師が集まる必要があるのよ。
 だったら、あの桜という子がマスターという可能性も高いでしょう?」
「でも、もしそうだとしたら、なおさら桜に会わないと。
 だって、他の魔術師から命を狙われるんだろう?」

 キャスターの言葉に納得しつつ、俺は桜のことを思い浮かべた。
 彼女の言う事を全て信じるとすれば、確かに桜がその聖杯戦争とやらのマスターである可能性は高い。
 でも、あの桜だ。
 俺の家族である桜が、万が一そんな戦争に巻き込まれているとすれば、決して戦いに向いていないであろう彼女を、俺が守ってやるべきなんじゃないか?

「それは止めておいた方が良いわ。
 もしあの子がマスターだとすれば、彼女を守るサーヴァントが居るはずだし、そもそも私たちには他人を守るほどの余裕が無い。
 正直に告白するけれど、私は七騎のサーヴァントの中で、最弱のクラスなの。
 魔術が使えなければ、他に有効な攻撃手段を持たない、脆弱な使い魔よ。
 それに、貴方はまだ魔術師の見習いで、正規のマスターでも無い。
 貴方の魔力量では、この世界に現界するのがやっとで、とてもじゃ無いけど他のサーヴァントと戦うことは出来ないわ」
「むぅ」

 ずっと我慢していたのにも拘らず、眉間に皺がよってしまった。

 聖杯戦争とやらに巻き込まれてしまったのは構わないんだ。
 キャスターに昨夜、”生死を争う戦いに巻き込まれるかも”と言われた段階で、ある程度は覚悟していた。
 いや、自分の命に対する覚悟なんて、親父から魔術を習い始めた時に既にしている。
 だから、この苛立ちの原因はそれじゃ無い。
 全ては、俺の実力不足。
 桜が魔術師だと気付けなかった事、キャスターの力を引き出せるだけの魔力量が無い事、そしてその為に、桜の力になれない事が悔しくて。
 噛み締めた奥歯が、ぐぎりと嫌な音を立てた。

「士郎くん……」

 キャスターが、心苦しげにこちらを窺う。

「ごめんなさい。
 私は、きちんと貴方に聖杯戦争について説明しなかったわ。
 だから――」
「いや、俺が苛ついてるのは、その事じゃないんだ。
 キャスターに怒ってるわけじゃ無い」

 申し訳なさそうに言うキャスターの言葉を遮って、その間違いを正した。
 俺の苛立ちが、彼女を不安にさせているのが良くわかる。
 だって、今朝までの彼女なら、俺の苛立ちを笑い飛ばしたり、受け流したりしてくれた。
 だというのに、目の前の彼女はどうだ。
 俺の怒りに怯え、必死に謝罪の意を示しているではないか。
 それが、使い魔としての契約のための恐れなのか、彼女の本心の謝罪なのか、その両方なのかわからないけれど、とにかく彼女にこんな顔をさせたくは無い。

「――いつもと一緒だよ。
 自分の不甲斐なさに苛ついてるだけだ。
 だから、キャスターは何も気にしなくて良い。
 今朝みたいにしてくれれば良いんだ」
「今朝みたいに?」

 あぁ、そうだ。
 今朝みたいに、俺の苛立ちなんて笑って、気にしないでくれれば良いんだ。
 俺が、馬鹿なだけだから。

 キャスターは俺の言葉を繰り返すと、少し考えるように俯いた。
 膝の上に置いていた弁当箱の蓋を横にどかすと、こちらに身体ごと向き直る。
 そして。

「……こうかしら?」

 言って、キャスターの腕が、俺の背中に回った。

「え――?」

 されるがまま引き寄せられ、彼女の胸に顔が埋まる。
 ふわりと、暖かい感触に包まれ、髪の毛に優しく手が添えられた。

「こうすると、元気が出るのでしょう?」
「み、見てたのか、キャスター」

 抵抗することも出来ず、ただ彼女の体温を感じていた。
 どうやら彼女は、今朝の藤ねぇとのやり取りを見ていたようである。
 ゆっくりと背中を摩る手と、髪を撫でる手は、あまりに優しくて。

「ち、違うっ!
 俺が言いたかったのは――」

 慌てて顔を上げても、言葉を最後まで続ける事は出来なかった。

 ――キャスターの唇が落ちてくる。
 駄目だ、こんな事してる場合じゃ無いのに。
 そう思っても、記憶に残る昨夜の彼女の感触が、俺の動きを封じていく。
 柔らかく触れ合う、互いの唇。
 遠くで、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴っていた。





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