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Family Affair. 二日目 その6「月と共に去りぬ」
「――なぁ、キャスター。
 黙っていられる方が居心地悪い。
 文句があるなら、ハッキリと口に出してくれないか」

 夜の住宅街。
 空の星を見上げながら呟いた。
 幸いな事に、まだ七時の半ばにも関わらず、辺りに人影は無く、俺がどう独り言を口にしようとも、それを聞いて眉を顰める人は居ない。
 そう言えば、この近くで押し入り強盗による殺人事件が起こったとか、ニュースで言ってたっけ。
 そんな物騒な時に、好き好んで出歩くヤツは居ないってことだろう。

「怒ってるなら、謝るよ。
 でも、こっちにはこっちの事情ってのが有ってだな――って、おい、聞いてるか?」

 紡いだ言葉が、白い息と共に、冬の夜空に溶けていく。
 その様子に、自分が本当に独り言を言っているような気がしてきて、歩みを止めた。
 振り返って、話し相手の気配を探す。

「聞いてるわよ。
 それに、怒ってもいないわ。
 ただ、呆れてるだけ」

 ふいに、脳裏に響くキャスターの声。
 久しぶりに聞く彼女のそれは、姿は見えずとも、心底呆れている様子を想像するに十分な色を含んでいた。
 もう何度、彼女にこんな声を出させたっけ。
 そんな事を考えると、無性に気が重くなって、ため息が零れる。

「ならその無言のプレッシャーを何とかしてくれ。
 悪霊にでも取り憑かれた気分だ」
「悪霊とは失礼ね。
 そもそも、圧力なんてかけてないわ。
 そう感じるのは、心にやましい所があるからじゃなくて?」

 嘘付け。
 と、彼女の言葉に、心の中で抗議する。

 ――放課後の事だ。
 急いで家に戻ろうというキャスターに、俺はアルバイトがあるからと言って、その申し出を断った。
 まとめると簡単な話だけど、その時は本当に揉めに揉めたんだ。
 新都に着いたころには、キャスターは何も言わなくなっていたけど、その代わりに重苦しいプレッシャーを放ち続けるようになっていた。
 キャスターの言いたいことは、解らないでもない。
 昼休みに、聖杯戦争のこととか、生死に関わる様々なことを話し合ったのだ。
 にも関わらず、その数時間後に、バイトへ行くなどと言い出したのだから、彼女としては、俺がちゃんと話を聞いていたのか、窺わしくも思うだろう。
 けれど、行き帰りの道から、働いてる最中、そして現在もずっと――。
 無言のまま、恨めしそうな気配を送ってこられるのでは、堪ったもんじゃない。

「これでも早めに引かせてもらったんだ。
 こっちも譲歩してるんだから、キャスターも歩み寄ってくれよ」

 仕事を残して帰るのは心苦しかったけど、ネコさんたちも最近は物騒だからと、早引けを快く許してくれた。
 それをだな――と、そこまで考えてた所で、グンっと魔力が吸い上げられるのを感じた。
 一瞬、眩暈に頭が揺れた後、不機嫌そうに頬を膨らましたキャスターが姿を現す。

「ちょっと。
 こちらが我侭を言ってるみたいな言い方は止めてくださる?
 だいたい貴方は、状況が理解できているのかしら。
 こんな時に出歩くのは、危険だということが解らないの?」

 人差し指を突き立てんがばかりにこちらを指差し、キャスターが迫ってくる。
 あ、そう言えば、怒ってる彼女を見るのは、はじめてかも――なんて事に気付きながら、それをどう収めようか考えると頭が痛い。

「仕方が無いだろう?
 バイトの予定は、ずっと前から入ってたんだ。
 いきなり抜けるのは迷惑がかかるし、生活費も稼がないと」

 とりあえず、目の前の指先を握って下げて、出来るだけ声のトーンを抑え、相手を落ち着かせるように言う。
 が、今のキャスターには、そんな努力も効果が無いようだ。
 指先を押さえるように握る俺の手を力任せに払うと、ますます不機嫌そうに柳眉を逆立てる。

「つまらない約束と端た金の為に、死んでも良いって言うの?
 そんなだから、貴方は魔術師見習いなのよ」

 カッチーン。
 彼女の言葉に、そんな音が脳内に響く。
 あー”冷静に”とか言って何なんだけど。うん。何か今のセリフは、鶏冠に来る感じですよ?

 ――こ、このヤロぉ〜、人が一生懸命、平和に解決しようと言うに!

「どんなものであれ、約束は守るものだろ!
 金だって稼がなきゃ、メシも食えないじゃないか!」
「だから、時と場合を考えなさいと言ってるの!
 いい? 魔術師だったら、どんな時でも最善で最短の、合理的な行動を取る努力をなさい!
 でないと早死にするわよ!」
「あーもう、煩いな!
 子供扱いの次は、説教かよ! アンタ、俺の母親か!?」
「ばっ、だ、誰が貴方の母親なのよ!
 私はただ……」

 そこまで言って、キャスターは口を噤んだ。
 何か考え込むように視線を逸らして気落ちする彼女を見て、俺は俺で、”やっちまった”と額に手をやる。

 ――馬鹿だ。またやった。
 なんでキャスター相手だと、我慢が出来ないかな。
 それに何ていうか、今のは確実に俺が悪かった。それだけは確かだ。

「……」
「……」

 気まずい沈黙が流れる。
 それを何とか打破したくって、気の利いたセリフは無いかと頭を絞った。
 けれど、それを破ったのは、案の定俺ではなく。

「やれやれ、報われん話だ。
 キャスターは、ただ少年の身を案じていただけと言うのに」

 ふいに聞こえた澄んだ声に、慌ててそちらを振り向いた。
 先ほどまで人通りが皆無だった坂の上に、その主を見つける。

「全く、男とは勝手なものだ。
 女がいかに案じたところで、こちらを顧みる事は無い」

 少しずつ、こちらに近づいてくる影。
 街路灯に映し出されたその姿を見て、思わず言葉を失った。
 それは、男物のスーツを身にまとい、肩口で揃えた金髪を月光に輝かせる、美しい女性だった。

「あ、アンタ、誰だ!?
 今、キャスターって言ったよな!?」

 呆気に取られた意識に蹴りを入れて、同じように呆然としていたキャスターの手を引き、背中に庇うと、こちらとの距離を徐々に縮める女性に目を注いだ。
 女性は、そんな俺の様子に薄く笑みを浮かべる。

「そうか、自己紹介がまだだったかな。
 私の名前は、バゼット・フラガ・マクレミッツ。
 魔術教会からこの街に派遣された魔術師だ」
「――待て!
 それ以上近づくな!」

 いざとなったら、キャスターを背負ってでも逃げ出す覚悟をしながら、一歩後ろに足を引く。
 バゼットと名乗った女性は、その涼やかな目元を細めると、ピタリと動きを止めた。

「やれやれ。
 人に名を尋ねておいて、自らは名乗らぬどころか、握手すらさせてくれないのか?
 日本人は礼儀正しいと聞いていたのだがな」
「あ、握手?」

 肩をすくめるバゼットの言葉に、思わず声を裏返す。

「そこまで警戒をするな。
 私は確かに聖杯戦争に参加する者だが、この身は既にマスターでは無い。
 証拠に、サーヴァントを連れていないだろう?」
「そうなのか、キャスター?」
「えぇ。確かにサーヴァントの気配はしないけれど……だからと言って、信用は出来ないわ。
 大体、マスターで無いのなら、どうやって聖杯戦争に参加すると言うの?」

 キャスターが、緊張に身を固くしながら、バゼットに言い放つ。
 その顔面は蒼白だ。
 ――それもそうか。今の俺たちには、戦う手段が全く無い。
 もし目の前の男装の麗人が牙を剥けば、それに抵抗することが出来ないのだ。

 バゼットは、そんな俺たちに向かって、小さく口角を持ち上げた。
 それは、たしかに笑みの形を作っているのだけれど、見る者に対して、どこか狂気めいた印象を与える。

「――何、簡単な話だ。
 私も君の元マスターのように、サーヴァントに逃げられてしまった間抜けなのだよ」

 バゼットの自嘲めいた声に、キャスターが身を震わした。
 それを満足げに見て、彼女はスーツの左の袖口を持ち上げる。

「見たまえ、この腕を」

 ゆらり。
 弓なりに垂れ下がったそれが、冷たい夜風に揺れた。

「情けないことに、令呪ごとバッサリさ。
 まぁ私の場合、サーヴァントにやられたわけでは無いし、誰かさんのように、殺されなかっただけマシだと思っているのだがね」

 くつくつと、バゼットが楽しげに喉を鳴らす。
 彼女が持ち上げる左の袖には、本来納められているべき”中身”が無かった。
 ――昼間に受けたキャスターの説明によると、令呪とはサーヴァントを召喚し、契約する際に現れる、マスターの証のようなものらしい。
 俺の場合、彼女との契約が特殊な形だった為に所持していないが、バゼットは腕ごとそれを奪われてしまったようだ。

 そこまで考えて、あまりの嫌悪感に頭が沸騰した。
 なるほど。自分の願いの為に殺し合いをする戦争だ。
 それぐらい、どうって事無いことなのか――!!
 と、怒りで目の前が白んだ瞬間、

「――な、何でその事を?」

 呆然とした様子のキャスターが、俺の前へと進み出た。

「ば、馬鹿!」

 慌ててその肩を引こうと手をやって、その表情が目に入る。
 キャスターは、神代の精霊さえも羨むような、目も文な造形の顔を、今までに無いくらいの恐怖に歪ませていたのだ。

「まったく、何て顔をしているんだ。
 悪かったよ。君の秘密をばらす様な、野暮な真似はもうしない」

 その顔を向けられたバゼットは、浮かべていた笑みを苦笑に変え、キャスターの肩をぽんと叩く。

「何故知ってるか、だったね。
 いやなに、私はずっと君のことを見ていたんだ。
 こう見えて、諦めが悪くてね。
 新しく契約出来るサーヴァントが居ないか、探し回っていたのだよ。
 それで君を見つけたのだが。――ただ、私は令呪を失っていたからね。
 慎重にタイミングを計っていたら、横からその少年に掻っ攫われてしまったというわけだ」

 バゼットはこちらに目をやると、再び楽しそうに喉を鳴らした。
 ただ、それは先ほどのものと違い、歪みの無い、純粋な笑みに見える。

「しかし、意外だったよ。
 契約の後、その少年を傀儡にして、魔力を漁りに出てくるとばかり思っていたからね。
 ――喜びたまえ、少年。
 君はこの英霊に、えらく気に入られているらしいぞ。
 令呪も無しにサーヴァントを従えるとは、他のマスターが聞いたら卒倒するな」

 とうとう耐えられなくなったのか、バゼットは声を上げて笑い出した。
 その様子に、俺は思わず圧倒され、言葉を失う。
 というか、傀儡とか、魔力を漁るとか、えらく物騒な言葉が出てたけど……。
 何気なくキャスターに目線をやると、何故か彼女は頬を赤らめ、こちらから顔を背けた。
 ――って、ちょっと待てよ。

「もしかしてアンタ、キャスターを奪いに来たのか!?」

 俺よりも彼女に近い場所に立っているキャスターを引き寄せ、庇うようにして叫ぶ。

「俺たちは、聖杯戦争なんかに興味は無い!
 悪いが他を当たってくれ!!」

 そうだ。俺たちは聖杯戦争に興味など無い。
 昼休みの屋上で、何とか平穏にやり過ごそうと決めたばかりなのだ。
 もし、そうじゃ無かったとしても、一度家族として受け入れたキャスターを、下らない戦争に送り出す気など毛頭ない。

 しかし、俺の叫び声に、バゼットの顔がみるみると凍った。
 その刺すような気配の変化に、思わずキャスターを抱く腕に力を込めてしまう。

「安心したまえ。
 君からキャスターを奪う気は無い。
 ――だが、聖杯戦争に興味があろうと無かろうと、火の粉は必ず君の身にも降りかかる。
 左手を、腕の中の彼女に見せてやりなさい」
「左手?」

 バゼットの言葉に、左手を持ち上げた。
 そこには、何時の間についたのか、奇妙な形の痣が浮かんでいる。
 キャスターはその痣を目にすると、驚いたように息を飲んだ。

「嘘……昨日確かめた時には、こんなもの無かった。
 まさか、私と契約したから?」
「いや、それは聖痕だ。
 魔術的な物ではなく、魂の有り様に引きずられて表れる、純粋な肉体の変化だよ。
 聖痕が浮かぶのは、聖杯戦争のマスターとなる者のみ。
 パスを通しただけで出てくるような物じゃない」
「聖痕?」

 バゼットの言葉を繰り返して、俺は左手の痣を眺めた。
 つまり――どういう事だ?
 状況の把握が出来なくて、首をかしげる。
 それをまた、バゼットが声を立てて笑った。

「詳しくは自分のサーヴァントに聞きたまえ。
 ただ、覚悟はしておく事だ。
 その痣が令呪に変わった時、君は聖杯を手に入れる資格を正式に得ることになる。
 そうなれば、この戦争から逃れることは不可能だ」
「――何だかよく解らないが、忠告は感謝する。
 けどアンタ、一体何が目的なんだ?
 俺たちに、それを言いに来たとでも言うのか?」

 気が抜けたようになっているキャスターを後ろに下げながら、俺はバゼットを睨んだ。
 が、バゼットは俺の睨みなど物ともせず、涼しい顔をしている。

「その通りだよ。
 なかなか勘が良いな、エミヤシロウ」
「お、俺の名前、知ってたのか?」
「そんなこと、どうでも良いだろう?
 私が、君の名前を知っていることなんて、大した問題じゃない。
 ――君たちはどうも戦う意識が出来てないようなのでね。
 一度、痛い目を見た私としては、放っておけなかったのだよ」

 ニヤリと、バゼットは、その形の良い唇を歪め、徐に右手を差し出した。
 俺も、警戒しながら右手を差し出すと、その中にすっと彼女の冷たいそれが滑り込む。
 刹那の握手。
 バゼットはあっけないほど簡単に俺の手を放すと、そのまま驚異的な跳躍で、背後の電信柱の上に飛び乗った。

「忠告はしたぞ。
 せいぜい死なないよう気をつけて、君の本当の武器を呼び出すことだ。
 応援している」
「むぅ。
 つまり、本当に俺たちに忠告をしに来てくれただけなんだな?」
「――」

 俺の質問に、バゼットは答えない。
 それ以上は聞くなとでも言いたげに、こちらを見下ろしていた。
 だから。

「そうか。
 ありがとう。アンタも気をつけて」

 様々な疑問は全てほっぽって、素直に礼を述べた。
 その言葉に、バゼットが一瞬あっけに取られたような顔をする。
 そして。

「ハ――」

 堪えきれぬように吐き出された笑い声を残し、その姿を消した。





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いつもありがとうございます。「仮面ライダーカブトのすべて 仮面ライダーカブトのブログ」管理人の「おやっさん」です。よろしくお願いします。「神に代わって剣を振るう男」神代 剣(かみしろ つるぎ)を紹介します。 設定20歳。仮面ライダーサソードの資格者です。
| 仮面ライダーカブトのすべて | 2007/05/24 5:59 PM |